佐助は甘え出すとむやみに物を食うので、大抵寝込んだ後は肥る。
「それ」
狭い板塀の部屋でふとんにまるまる忍に、食え、と差し出すと、佐助は熱でとけかけた目で
きゅうりに唸った。
「それやだ」
「食え」
「やだ」
「もう、うるさい食え」
「やだ」
具合を悪くすると、佐助は粥にすら砂糖を入れろとねだる。
「旦那、昔おれに虫かごの残りのきゅうり食わしたでしょ。もう食べない」
「おれも食ったではないか」
別に何とも思わなかったので食った。
それ、と皿に盛ってやると、佐助も妙にうれしそうにぱりぱりと食ったので、鈴虫の残りだ、
と言っても何とも思わなかった。
「おれさま虫じゃない」
そのくせ鶏に菜っ葉をやりながら、同じ葉っぱを噛んでいたりする。
「もういいから食え」
「やだ」
本当は甘いまくわを持って来てやるつもりだったのだ。
「幸村様」
井戸端で冷やしている時に、見つかった。
「それは誰にやるものでしょうな」
「あ」
あっさり取り上げられて、佐助の昼のおやつはきゅうりに変わった。
「瓜くんないならお砂糖ちょうだいよ、お砂糖」
普段ならそこそこ相手の顔を見て話すくせに、また熱が上がったのか、佐助の視線はふとん
の上をふらふらとさまよう。
「あずき炊いてよー。おいもふかしてよー」
頭の揺れが大きくなって、しまいにはふとんに横倒しになった。
「おもち冷やしてー。おれにも蜜の氷ちょうだいよー」
うーうーとふとんの上でもがいて、ふいにその動きがぴたりと止まった。
「佐助?」
面倒くさくなって、自分できゅうりを咥えていた。ぱき、と前歯で折ると、目を見開いたま
ま、忍が言った。
「あの子とおんなじのが食べたい」
ぐっ、と喉を青臭い実が通る。
あの子、と妙にはっきり言って、忍は目を開いたまま弛緩した。
「――食うなよ、おまえは」
忍の口を指で塞いで、幸村は少し悩んだあと、黙ってその唇の端を噛んだ。
腹の中に呑んだ実のかけらを抱えたまま、翌朝見ると、忍はふとんの上で汗をかいて伸びて
いた。
「おお」
戻ったか、と聞くと、幸村の忍はなんだかいやな顔をして、塩水くんない、と言った。
「お酒で割って、濃いやつ」
おう、と言って引っ込みながら、どうにしろあれの食い物はわからんと、幸村は己の髪を梳
いた。
盆の油、
20080908
火が払う:送り火