バレンタインも過ぎたというのに、幸村と佐助は、ろくろくおいしいチョコももらえず、さ
っきからこたつで豆を食べている。
「……旦那、何個目?」
 ぱり、と半開きの口のまま、幸村が豆を噛む。
「苗で言うなら五六本はいった」
「あー、苗ねー」
 ちゃらちゃらと豆粒をかき混ぜながら佐助が咳き込む。天板の上は一面炒り豆が埋め尽くし
ている。テレビとエアコンのリモコンで挟まれて、無数の豆がうれしそうに光っていた。
「……おいしそうなんだけどねえ」
 テレビではオリンピックがやっている。
 スキー、スケート、スノーボード。
 別にきらいではない。スピードだけなら夏の競技よりずっと速いし、背景だって山とか雪と
か、なんかかっこいい。でも、あれだ。不満だ。なんだかすごく不満だ。
 露出が少ない。
 いや、むしろ露出はしているのかもしれないが、あれだ。ちょっと、あんまり、なんていう
か、あのユニフォームはどうかと思う。男心的に。いや、わからないなりに、女心的にも。
 金って。
「……うーん」
 唸る佐助を横に、幸村は神妙な表情で画面を見つめている。
 個人的には、なんか、あの謎の素材が醸し出す、絶妙な体のおうとつ。あれが、なにか、す
ごく気になる。しかも、なんか、あの色、ちょっと、裸っぽい。
「燃えるでござるな」
「え、あれに?」
「このレース、外側の選手の方が強豪だ。カーブが上手い」
 豆を噛むのに疲れたらしい。気の抜けた声でこたつに潜りながら、幸村はころころとざぶと
んをまるめて、自分の寝床を作っている。
「ちょっとだんなーあ、まだ豆ちょうあるんだけどー」
「おまえが食え」
「もう食べたって!」
「大豆はプロテインの代わりにもなるぞ」
「おれさま別にマッチョになりたくないし!」
「安心しろ。おれはおまえがマッチョになっても大丈夫だ」
「なにが!?」
 幸村は本気で豆に飽きたらしい。最初元就が大袋で寄越した時は、好きなだけ食べられると
うれしそうにしていたくせに、この有様だ。実家では家族全員で豆を分け合うらしく、ほんと
うに年の数しか豆が回ってこないらしい。
「旦那のばかー」
 元就も元就だ。生ならともかく、米や小麦粉ならともかく、いくら余ったからと言って、二
キロも三キロも炒り豆ばかり寄越してくるものではない。どうすればいいのだ。だるくなった
顎をなでる。正直佐助は、プレーン以外の炒り豆の食べ方を知らない。
 ちら、とテレビを観ていた幸村が振り返る。
「……マッチョになってもいいぞ」
 眉の下がったその顔が妙に情けなくて、佐助は笑った。
 スタートラインに金色の選手が立つ。ライトが赤くスタンバイを告げる。緊張する。
 一、二、三、と唇で数を数えて、佐助は厄払いの豆を拾い上げる。
「がんばれにっぽーん」
 指先で弾いた豆が画面に当たって、エッジがリンクを削って走り出す。
   




[GIFT]

20100328設置
やっぱ生肌でしょ。


文章 目次