腹いっぱいものを食わせては、指を突っ込んでむりやり吐かせる。
 食いたい盛りにまともに食わせては、戦忍は使い物にならない。好き勝手にでかくなら
れては困るのだ。だから、食えるだけ食わせて、吐かせてしまう。
 佐助にも吐き癖があるのは知っていた。
 だらだらと時間を掛けて食うくせに、まともな男の半分も食えない。食わせれば吐く。
戦忍は皆、食えないように仕込んである。知った時は、道理で人前でものを食うのをいや
がるはずだと思った。
 佐助はいつも人並みのように振舞いたがる。
 げえげえと吐きながら、誰にも言わないで、と訴える。
「だって、汚いし、みっともないし」
 恥ずかしい、と言った声は、哀れなほど小さかった。
 戦忍は畜生忍。下忍ばらでもまだ低い。
 見せしめのように痛めつけられて、逆らえぬように仕込まれる。
 生まれ持ったものなど何一つ残らない。
「ごめんね」
 それでもまだ、この忍は、眼の中に光を飼っている。
 自分で見ることもできぬくせに、と思った。
「馬鹿め」
 瞬いた眼には、自分が映っていて、幸村はそれを哀れと思って、目を閉じた。


「かささぎの手、」

20071025
不動不変不滅の、
眼の中の星


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