「いたあい」
忍はまだ幸村の姿のままでいる。
「おれの顔でぐずぐず言うなっ」
「いいじゃん別におれの体じゃんっ」
「おれの姿だっ」
いたあい、と忍はぐずる。
「なんでいきなりぶつのさ。ふつうかわいい部下だったらやさしく起こしたげない? ていう
か寝かしといたげない? いきなりぶつとかひどくない?」
「うるさい」
掛け布団にもぐる手を引っ張る。
「いやだー、旦那いやだー」
「うるさい」
「やだー」
ぎゃー、と悲鳴を上げて抵抗する。
引っ張り出した手は、幸村と同じに手のひらが分厚くて、指先がまるい。佐助の手とは違う。
佐助の手は、薄くて細い。手首だって骨が平らで、指先をすぼめてしまえば、先まできれいに
細くなる。
佐助の手は細いと思っていた。小さいわけではない。ただ、忍にふさわしい形をしていた。
今握っている、この手もまた、己で思うより、細い。
自分の腕を見た。
佐助とは持つものが違う。真ん中にまるく太い骨が通っている。それに何枚もの肉が重なっ
て、支える骨が幾つも組み合わさっている。
だから、もっと太いと思っていた。
思うよりも、小さかった。
「……なによ」
じっと眺める視線に気付いたのか、ふとんの陰からうかがう声がする。
「放してよー」
言いながら、こっそりと幸村の腕をふとんに引っ張る。
「……おまえ」
鳶色の前髪の下で、幸村から逃れようと細い眉がしわを寄せる。
「……なによ」
何を意固地になっているのか、往生際悪く主の指をはがそうとしている。
他所の忍は、主殿の言うことなら、と何だって否やも言わずに従うと聞くのに、この己の忍
はなんだ。幸村の言うことなどろくすっぽ聞かない。
「もー、旦那ぎゅうぎゅうに握んないでよ。あとになるじゃん、あとに。やだよ、おれさま明
後日までお休みなのにさー、手形とかついてたらかわいそうでしょー」
「なにを言うか」
「ええー」
佐助の目がちらちらと光る。
なんだ、と前髪を掻き上げて、瞳を見た。
「ちょっと、乱暴」
不足そうに顔を歪める。
その目の色が、光っている。
「ちょっと、なに」
間近で顔を覗き込まれて、忍が首をすくめる。
その目を、覗き込んだ。
「ーーこんな色をしているのか」
長いまつげが瞬いた。
「ーー色?」
不安げに瞬く。
「おまえにはこんな風に見えているのか」
色の薄い目をしていた。そのくせ瞳孔だけ異様に黒い。それが不安げに瞬く。
「おまえねずみのようだな」
臆病だと唇で笑う。
そのまままぶたに口づけたから、この忍には、きっと見えていないと思う。
食ってしまおうか、と笑う、自分も気の長くなったものだと、幸村は笑った。
ねずみをながく、
20090105
初めの獣、次に牛