佐助、ぶっそうな顔をしている、と主人が言った。一瞬意味がわからず、ああ、と考え
てから、してませんよ、と言った。
「旦那が変なこと言うから」
言ってない、と幸村は唸った。すいかを食っている。
「別におかしくはなかろう。おれはおまえに、子供はいないのか、と聞いただけだ」
「だから何考えてそんなこと言うの、いきなり」
「別に何もない」
おらんのか、と思っただけだ、とすいかの実を食っている。
幸村は前を向いたまま、ざくざくと実を食い進めてゆく。たね出しなよ、とも言えず、
佐助も自分に切り分けてもらった分を齧った。もそもそと口を動かす。
「おらんのか」
佐助はちょっと主人の顔の辺りを見た。
「――いたらどうすんの」
途端、幸村は人形のような顔で、ぐりっとこちらを向いた。
「取り上げる」
少し、気圧された。
「いるのか」
ぷっ、と庭に向けてたねを吐く。佐助はその顔をまじまじと見た。鼻の頭から、顎の先
まで見て、じっと顔の真ん中を見た。そして、ちょっと、うろたえた。
「――いないですよ」
「そうか」
主人は、暑い、とだるそうに唸ると、そのまままた前を向いてすいかを食い出した。
「つまらん」
さっきまで白い顔をしていたのに、その瞬間だけ頬を膨らませて、子供のような顔をする。
「なにそれ」
佐助は何だか拍子抜けしてしまい、その時はそれで終わった。
庭で黙って夾竹桃が赤く咲く。
退屈あそびに、
佐助の子供を連れ回そう、と勝手に思ってる幸村
いやだとは言うまい
――イヤイヤイヤイヤ!
20070620