元は真っ黒だったのだ、と言うと、主人は、まことか、と鼻息で口を利いた。
「うんそう」
 あっさりうそをついた。庭先でりんどうの青い花が揺れている。秋だなあ、と思って、
佐助はすぐに、寒いのはいやだなあ、と思う。眠たい。
「くち」
 柱にもたれたまま、佐助は背後の主人に言う。
「もの入れたまましゃべらないの」
 周りの音を聞きながら、うとうとと目を閉じる。眠たい。
 じっとしていると、自分の体がきりきりと音を立てているのがわかる。きりきりと、音
を立てる。佐助は、眠いな、と思いながら、呼吸だけいつもと同じように続けている。
 主人がもくもくと何か食べている。何だったかな、と佐助は思う。
 女が盆を持って主人のそばへやってきた。何が出されたのか、佐助は知らない。
「さすけ、さすけ」
 寒いな、眠いな、そう思って佐助はその場を動けない。
 うそだよ、とゆめうつつに思った。
 うそだよ、髪の赤いのは生まれつきですよ、と佐助は自分が眠っているのを感じる。
 自分の寝息を聞きながら佐助は眠る。
 さすけ、さすけ、と言いながら、まるい爪が忍の髪をひっぱった。




しのびとて育ちつつ、
習作20070121
20070618


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