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「――佐助」
目を覚ます。はっ、と最初の息が白く凝った。
障子を透かして、畳に朽ち葉の影が揺れている。柏の葉だ。もう朽ちるか、と思う。
北の霜は、思ったよりも早い。そして、細く、鋭い。甲斐はまだ夜露は落ちても霜にはならぬ。
越後の霜は、太く、深い。それを、この手が、足が、踏み破る。
「佐助」
身を起こして、呼ぶ。
ぼんやりと弱い気配が手許に残っている。時々そうやって自分が戻っているのを知らせる。う
っすらと、違う呼吸の仕方をするものの気配を残す。
部屋の隅が暗い。
「帰ったか」
うん、とぼんやりした声が返る。
「行ってきた」
赤毛がふらふらと揺れている。幸村は忍の姿に顔を歪めた。佐助は白い顔をして、半分目を閉
じている。小さくしゃくり上げるような息をしている。目が合わない。
「お館様にお伝えできたか」
うん、と頷く。
「居室でお伝えしたから」
声が途切れる。言葉を忘れたように、佐助は少し俯いた。
「――大将だけ」
知ってる、と幸村を見た。
「よくやった」
この忍は自分の唇を噛む。左の端だけ薄い唇が腫れている。
「よくやった」
目だけ苦しむように細くして、その唇がゆっくり笑う。
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